夜の空気を震わせて、遠く、街を疾走するサイレンの音が聞こえた。どこから来て、そしてどこへ向かうのかわからない音は、ただ漠然とした怖れをともなって、夜を駆け抜けていく。
 手を伸ばし、枕元の灯りをともした。冷やりとした涼気が腕を掠める。輪郭だけがはっきり見える室内は他人のようにたたずみ、けれど夜は何事もなかったかのようにただそこにあった。
「…どうした?」
「あ、悪ィ。起こした?」
「起きてた。サイレン、案外近いな」
「ん…なんかあったかな?」
 そうかもな、と言いながら、あいつは布団からはみ出たままの俺の手を取った。
「…どうしたの?」
「別に……いや、なんか…ちょっとな」
 あいまいに言って、あいつは俺の手を強く握った。サイレンが聞こえる。
「ちゃんといるよ」
「知ってる」
「お前だって、ここにいるんだろ?」
「……」
「なァ―――」
「いるよ。叶うならいつまでだって―――いたい」
 いればいいだろ、と、言いたかったけど言えなかった。そういうのとは違うと思った。
 言い知れない不安というのは必ずあって、俺たちはなるべくそれに気づかず済むようにと漠然と願っている。これは、その一つの最たる形だ。こんなに近くにいるのに、こんなにも遠い。
「…もう、寝る」
「…そうか」
「お前も、」
「おやすみ」
 俺の手を握っていた手が離れて、音もなく枕元の灯りを消した。もう一度手を伸ばそうかと考えたけれど、どうしたって届かない気がした。
「なァ、」
「なんだ?」
「サイレン、やんだね」
「……」
「…おやすみ」
 あいつに背を向けて、ぎゅっと強く目を閉じる。サイレンはもう聞こえない。あいつの姿も、今は見えない。






(孤独の共鳴)
You look like lonely
It is sad dream,but it is not bad dream