その日、いくら待っても彼は来なかった。
 生来待つことが苦ではない僕は、始業のチャイムの直前に教師に声をかけられるまで、ハチ公よろしく校門の前で彼を待っていた。
 あとで聞いたところによると、どうやら彼は風邪で欠席ということらしい。
(珍しいな)
 授業中にぼんやりと見下ろした景色の中を、すっかり冬の装いをした人々が歩いていく。
 木々は寒々しく葉を落とし、幾分穏やかとはいえ風は冷たそうだった。
(帰りに寄ってみようかな)
 コツコツとシャーペンで机を叩き、クラスの半数以上が聞いちゃいないであろう、退屈な教師の話に耳を傾ける。
 常に一緒にいたわけでもないが、ふとした瞬間、妙にその存在が恋しくなるときがある。
 いなくならないで欲しい。
 せめて、この冬が終わるまでは。
(……寒い)
 そうしてまた窓の外に視線を投げる。
 あの日より少し長くなった夜が、もうそこまで迫っていた。






(雰囲気5詞:雪/03.まるで惜別のように)
wintry→dislike