彼岸花が咲いていた。
 蝉の声を聞かなくなった。
 詰襟の学生を見かけるようになった。
 そうして、夜が少しずつ長くなる。
「―――――四回目」
「へ?」
「溜息」
 何かあった、と続けて問うてくる声は綺麗に無視をして、僕は彼に視線をやった。
「そんなに?」
「ん、鬱陶しい感じ」
「酷いな」
 そんなこと全く思っていない口調で言って、零れそうだった五回目の溜息を飲み込む。
 聡い。それも、妙なところで。
 本当は溜息どころの騒ぎじゃない。逃げ出したいくらいなのだ、僕は。
「……昨日、さ」
「うん?」
「コンビニで肉まん買って、すぐ傍の自販機であったかいミルクティー買って、薄暗くなり始めたからっつって時計見てもまだ五時台で、そう思ってたらどっかから虫の声が聴こえて、」
 彼はそこで半端に言葉を切って、僕を見た。
 思わず目を逸らす。彼が笑う気配。
 冬の訪れは、多分、何かの終わりの始まりなのだと思う。
「………」


  もうすぐ、何度目かの冬が訪れる。






(雰囲気5詞:雪/01.降り積もる過去に似た)
equinox→steadfast