誓えない事を誓います。 たった一つを守る為に。 無言の要求に従って目を閉じれば、数瞬不自然な間を置いてから唇が触れた。 触れるだけを数回。目は閉じたまま。 す、と頬を撫でる手は手袋越しのそれではなく、ひたりと当てられた掌の冷たさにガイは一瞬身を強張らせた。 じんわりと体温が移っていくのが判る。 まるで熱を共有するかのような感覚。錯覚かも知れないが。 「ジェ、…っ」 呼びかけた名は深くなった口接けに飲み込まれた。 するりと滑り込んできた舌はその手と対照に熱く、ガイは拒むでも応えるでもなくただその感覚を受け止める。 そうでもしないと攫われそうになる。 共有する温度、それは余りにも、熱い。 「…ん…っ……」 上顎を舐められ、さっと肌が粟立つ。 十分に取り込めない酸素は霞む思考に拍車をかける。 そうして無意識に正面に向かって手を伸ばせば、座った状態の自分に立ったまま上体を屈めてキスをしている相手の肩にぶつかった。 そのまま肩を掴み引き寄せる。 至近距離で、笑むような吐息。 「不安ですか?」 「っ…は、…何が」 「…いえ、別に」 ジェイドは一つ低く笑い、自分の肩を掴んでいるガイの手を取って片膝をつく。 まるで今にも忠誠を誓おうとしているかのようなその姿勢に、思わずつられるようにしてガイも笑った。 再び目を閉じればキスが落ちる。 戯れのように触れて離れていこうとする唇を引きとめるように舐めてやれば、今度はジェイドが一つ笑った。 今度は閉じた瞼に唇が触れる。 その拍子に、細い髪が淡い香りを纏って頬を撫でた。 「やけに今日は大人しいのですね」 「どうしてだと思う?」 「さあ…判りません、どうしてですか?」 問うておきながら、ガイの言葉を待つ事なくジェイドは再び唇を重ねる。 迎え入れられるようにして差し入れた舌に今度もガイは応えなかった。 「ん、ぅ……」 呻きにも似た吐息を零し、ガイはジェイドに取られた手に力を籠める。 先刻は確かに冷たいと思った手。 温度など、とうに判らなくなっていた。 与える熱、奪う熱。 相反する二つはけれど、確かにここに共にあるのだ。 「ふ……はぁ…っ…」 漸く離れた唇に大きく息をつく。 一気に流れ込んできた酸素に少しだけ咳き込み、ガイは半ば睨むようにジェイドを見やった。 「…こんなんで…、酸欠で死んだりしたら、死んでも死にきれないぞ?」 「フフ、気をつけますよ」 普段より低い所にある紅は笑みに細められ、微かに潤んだ蒼を見上げる。 そうして手の甲に降る小さな口接け。 それはまるで儀式のような。 「何の…誓いのつもりだ? ジェイド」 「そうですね……強いて言えば、共存を」 「"共に存在する"、か?」 「"共に生存する"、です」 もう一度手の甲に口接けてジェイドは言う。 言葉の意味はさして変わらなくとも、その重さは比べものにならない。 そんな事誓えないと知っている。 互いに、保障など何もない所で生きているのだから。 生きて。どうか生きて、共に。 本当はいつだって願っている。 「…誓えるのか?」 「誓いませんよ」 ガイの問いに事もなげに答え、ジェイドはガイの手を解放する。 矛盾している、と思う。 けれど仕方がない。真実なのだから。 自嘲を押し隠してそう考えるも、笑みは上手く取り繕えなかった。 「…不安がってるのはアンタの方じゃないか」 ガイはそう言い、未だ片膝をついているジェイドに先刻とは逆の手を伸べる。 その手が自分の元に届く前に絡め取り、ジェイドは問答無用でガイをきつく抱き締めた。 (coexistence) キスシーン習作。そして相変わらずわけの判らない観念話。 私の書くジェイガイは総じて似たような話な上にジェイドさんが弱い; そして突き詰めればきっと全部同じ話; 小説っていうか、散文。どうにもこうにも纏まらない変な話です。 |