傷つきたがりの嘘つき。
哀しくも強い、その姿を知らない。














 普段手袋に包まれているその手が、槍を握る所為か、見た目通り華奢なだけではないと知っている。
 戯れに触れた掌の皮膚は案外硬くて、ああやはり守る手なんだな、などと、全く自分にしか理解出来ない感想を零せば案の定ジェイドは怪訝そうに俺を見た。
「それはあなたの方でしょう?」
 何処か鬱陶しげに、ジェイドの手は俺の手の中からするりと逃げていく。
 離れてしまえばもう、それはまるで作り物のように華奢で、儚い手にしか見えなかった。
 体温の低い、大きな手。
 じっと見つめる俺に気付いたのか、ジェイドは黙って俺に向かって笑って見せた。酷く曖昧な笑みだった。
「そんな顔をしないで下さい」
 右手が伸べられる。そっと触れる。頬に、かさついた感触。
 ああよかった。泣いていない。
「この手は奪う手です。大切なものをやがて、どういう形であれ、奪っていくかも知れない手です」
 実際のところ、俺は、戦っているジェイドの姿をよく知らない。
 風の噂に聞くだけで、けれど、それはいつだって鮮明にイメージ出来るほど明確な"事実"として届けられた。
 本当か、或いは嘘かなんてことに興味はない。
 そう、その手が、守る手であってくれる間は。
「守るべきは……そう、あなたの手の中にあるはずです。私は持たない。全て、あなたに託しますから」
 ああ、なんてずるい。







 お兄さん、と、あたたかく優しいネフリーの声が蘇る。
 ジェイド、と、憧憬の籠もるサフィールの声を思い出す。
 それをも、守らないと言うのか。







 時々わからなくなる。
 果たして、この瞬間はあるべくしてあるものなのだろうかと。
 奪う手、と言った。
 ならば奪ってくれればいい。
 俺の手は、いつの間にか、抱えきれないほどの大切なもので溢れてしまっている。
 だから、遠慮なく奪ってくれればいいのに。
(……無理だ。例えば戦って俺が勝ったとして、ジェイドは絶対に俺からは何も奪ってくれやしないんだ)

 奪う手、なんて嘘だ。本当は失うことを人一倍怖れている。
 だから奪われる前に奪おうという、ただそれだけのこと。
 ジェイドの手は、誰よりも優しい、守る手だ。
 守りたいものが多いから、少しでも安全なところに置き去りにする。
 俺はジェイドの戦っている姿をよく知らない。
 ――――当然だ、だって、









 世の中は"いつの間にか"移ろっていく。
 ほんの一瞬目を離した隙に、俺の見知った世界など簡単になくなってしまう気さえする。
 戦うのは、本当は何の為か。
 白い手が、華奢な手が、冷たい手が、武器を持って。一体何の為に、戦うというのか。
 再びジェイドの手を取り、何をするでもなくじっと見つめる。
 今はそれが全てで、そして唯一だと思った。















(ゆめのおわり)


ジェピオというか、ピオジェというか、ジェイド+ピオニーというか。
お好きに解釈して頂ければいいかな、と思って書いたお話ですが、個人的は気に入っています。