薄闇の中で、ぼんやりと今しがた終わった夢を思い返した。
 朝霧に煙る空気が冷やりと肌を刺す。
 何とはなしに首元を覆う髪を払えば、しっとりと湿ったそれがやけに重く感じられた。
 もともと寝つきも寝起きも悪い方でははないが、今日ばかりは最悪と言えた。
 眠ったままの世界。目覚めてしまった自分。
 まるで置き去りにされたような錯覚を覚え、しかしジェイドはすぐさまそんな思考に強制的にストップをかけた。
 ぐるりと仲間の姿を確かめるように辺りを見回す。
 やはり強行軍で疲れが溜まっているのか、多少視線を留めても誰一人目を覚ます気配はなかった。
 平和だ、などと似つかわしくないことを考える。
 どうせならこのまま、と似つかわしくないことを願った。
「……うそ、ですよねェ…やっぱり」
 まるで言いわけのようだ、と考え、けれどすぐにどうでもいいかと思い直す。
 音を立てないように立ち上がり、少し離れたところで眠るティアの肩をそっと揺すった。
 ぼんやりと開いた蒼眼がジェイドを捉える。
 意識か無意識か、ティアは柔らかく微笑んだ。



  どうしたって思わずにはいられない。
  願わずには、いられないのだ。



 これまで考えもしなかった、それこそ嘘のような幸福ばかりが、澱のように胸の内に降り積もっては気付かぬうちに崩れていく。
 この日々を、遠い未来にも同じく幸福と呼べるのかなどということは、自分にもわからない。
 それでも、今この瞬間に繋がる全ては手離したくない、と思う。
 遠く、東の山並みを光が縁取っていく。
 あァ、また始まっていくのだ。



  降り積もるのは日々。いつか、こうして思い返す日々。
  嘘でもいい。まやかしでもいい。
  けれど、どうか消えぬように、と。



「……た、いさ…?」
「夢を、見たんです」
 そっとティアの頬に指を滑らせ、ささやくように声を落とす。
 先刻の夢は、過ぎ去った日々に何処か似ていた。








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初夢のお話。と、言わないとわからない辺りしょんぼりなお話。
ん、何だか中途半端な気もしますが、個人的には満足です。