強くありたいと頑なに願う。
どうか、守る人を守れますよう。










 緩やかに渦を巻いて収束する光は、けれど一点に収束しかけた所で唐突に拡散した。
 ぶつん、とまるで回路が切断されたかのような感覚。
 一拍遅れて目を開けたティアは、状況が飲み込めないままにぴりぴりとした殺気の感じられる方に視線を向けた。
「…!」
 未だはっきりとしない感覚の中にあって、感じ取った殺気は思った以上に近く。
 殆ど反射も同然の動きで身体を捩れば、左腕を敵の剣が掠って過ぎた。
「っ、!」
 痛みに顔を顰めながらも、後方に一歩跳んで間合いを取る。
 ようやくはっきりと知覚できるようになった気配は、案外離れてしまった仲間との距離をティアに知らせていた。
 まずい、と直感で思う。
 敵との、また仲間との距離を考えれば、到底新たに詠唱をするだけの余裕はない。
 しかし元々後方支援としての役割を果たす事が多いティアの事、接近戦――しかも相手は長剣を持った兵士だ――は、決して得手とする所ではない。
 どうしようか、と刹那に思考を走らせる。
 恐らく仲間と合流するのが一番なのだろうが、戦局を見るだにそんな余裕は双方なさそうだ。
 取り敢えず、とばかりに杖を持ち直し、ナイフを構える。
 そうして眼前に迫った剣の切っ先を避け、ティアはもう一歩後ろに飛び退いた。
「くっ…」
 動くたびに先刻の傷が痛む。
 着地と同時に投げたナイフは、標的を逸れて音もなく地面へと落ちた。
(せめて…せめて数秒敵の注意を逸らせれば…!)
 最速で唱えられる術の詠唱時間を考え、ティアは回り込むようにして仲間のいる方へ走る。
 けれど動きは敵の方が若干速く、三度振り下ろされた剣を今度は杖の柄で受け止めた。
 重い斬撃は撥ね返す事も叶わず、せめて自分に届かないようにと押し返す。
 半ば振り返った無理な体勢。
 身をかわそうにも、それは出来ない相談だった。





  そういえば、以前もこんな事があった気がする。
  …あの時は一体どうしたんだったか。





「……!」
 聞き慣れた音、或いは感覚。
 それが命取りであると知りながら、ティアは僅かに視線を自分の左右へと走らせた。
 音素が一点に収束し、呼応する。
 タイミングを慎重に計り、ティアは渾身の力を籠めて敵の剣を押し返した。


「エナジーブラスト!」


 光の粒子と共に、音素が音を立てて弾ける。
 小規模ながらも確実なダメージに繋がる譜術を横目に見ながら、ティアは素早く体勢を整えると杖を構えた。
 再び集中力を高め、詠唱に入る。
 重なるようにもう一度音素が弾けた。










* * *


 その後無事仲間と合流し、おおよそ今日の道程を終えて後。
 夕食の支度をするアニスに手伝いを申し出たものの素気無く断られたティアは、所在なくぼんやりと夜空を見上げていた。
 応急処置として回復術をかけたものの、思ったより深かった傷はじくじくと鈍く痛む。
 自分の不注意の所為だ、兵士として失格だ、と思うよりも何よりも。
 今はただ、どうしてか無性に痛かった。
「…、……」





 思い返す。いつだって助けられてばかりの自分。
 過ぎた日、あの時だって確か。





「ティア」
「………たいさ…?」
 気配も露わに近付いてきたジェイドに小さく声を返し、ティアはそれっきり何も言わずにじっとジェイドを見つめた。
 ぱちぱちとまばたきを繰り返す。
 夜であっても鮮明なはずの視界は、何故か今日に限って霞がかって見えた。
 ジェイドが隣に座ったのを気配で感じ取る。
 けれどティアはそちらを見ようとはしなかった。
「傷の方は如何ですか?」
 そんな事は意にも介さずジェイドは問う。
 その落ち着いた口調と声は、どういうわけか酷くティアの心をざわつかせた。
 やはり夜は好きになれない。
「……痛いです」
 小さく呟いて、意図してティアは顔を背ける。
 今顔を合わせては駄目だ。
 きっと何もかも見透かされてしまう。
「難敵でした。ルーク達も、それぞれに随分と苦戦していたようですよ」
「…そうですか」
「皆さんとても心配していましたが…ふむ、やはり余り大丈夫そうではありませんね」
「私なら平気です」
「いえ、そういう事ではなく……ここが」
 ここ、と言って、ジェイドは自分の胸の中心を指で突いてみせる。
 その動作に、ティアはジェイドから顔を背けたまま小さく嘆息を零した。
 やはり見透かされている。
「……慰めはしませんよ。あなたが越えるべき事ですから」
「…判っています」
「けれど、責めもしません。もう遠い昔の事ですが……私も、越えたのですから」
「大佐も…?」
「ええ。落ち着いて、自分の内面に耳を傾けてみる事です。あなたならきっと判る、私はそう信じますよ」
 ティアは殆ど独り言のようなジェイドの言葉にじっと耳を傾け、そっと目を閉じると感覚を研ぎ澄ました。
 拡散する感覚、収束する感情。
 胸に灯った小さなぬくもりが、どうか潰える事のないように、と。
「越えてみせます」
「楽しみにしています」
 強く前を見据えるようなティアの声に、返る声は穏やかだった。
















(Judicial Tact.....radiance)


何だこの話……書いているうちに、何が書きたいのかさっぱり判らなくなってしまいました;
それにしても戦闘シーン(といっていいのかも微妙ですが)が適当すぎると思います。というかここは何処だろうか(…)