原因と結果。
何てあやふやな因果関係。










 よく晴れた乾いた午後。
 買出しがてら情報収集、という名目の元、ジェイドとティアはキムラスカ側のバザーを訪れていた。
 不用品の売却についてジェイドが店主と話している間に、ティアは幾つかの露天を回って必要品を購入していく。
 連れ立って出かけたからといって、行動まで同じくする必要はない。
 その点で、二人の考えは一致していた。
「…やれやれ」
「大佐、お疲れですか?」
「いえ…ただ、こういった所で店を構える方は皆さん威勢がいいですからね、多少気圧されてしまっただけです」
 そういうのを疲れていると言うのではないか。
 ふと頭をよぎった疑問には気付かなかった事にして、ティアは腕の中の紙袋を抱え直した。
 一概に必要品といっても、やはり旅をするとなればそれも多岐にわたる。
 早い話、大量の買い物をすればそれに比例して荷物も重くなる、という事だ。
「お持ちしましょうか?」
「あ、いえ、平気です。宿はすぐですし」
「ふむ…ですが生憎、女性に重い荷物を持たせておくほどの甲斐性なしでもありませんので……失礼」
 言うが早いか、ジェイドはティアの手から器用に紙袋を取り上げる。
 ティアが両手で抱えていたそれを軽々と片手に持ち、何か言いたそうにしているティアに向かって"いやー重いですねー"などと嘯いて見せた。
 相変わらずその表情からは真意など微塵も読み取れない。
「買い物はこれで全部ですか?」
「はい。リストにあったものは一応」
「では一度宿に戻りましょうか」
「そうですね、他の皆も、っ、」
 不自然に言葉を切ったティアに、ジェイドは足を止めて何事かと振り返る。
 しかし当のティアも何事か理解していない様子で、けれど足元に視線を落とせばそこにはティアの服の裾をしっかりと握り締めた小さな男の子。 
 今にも零れそうなほど涙を溜めたその目はとても不安げに見えた。
「…どうしたの?」
 裾を掴まれたままティアがそう問えば、子供はふるふると首を左右に振る。
 ティアは困ったようにジェイドを見やり、ジェイドもまた緩く首を振った。
 恐らく迷子だろう、とは思う。
 しかし、この場合一体どうすればいいのだろうか。
 そうこうしているうちにティアの服を掴む小さな手が力なく緩み、次の瞬間、子供は火がついたように泣き出した。
「あ、あ、あの、えーっと…な、泣かないで」
 困ったようにそう言い、ティアは目線を合わせるために膝を折る。 
 そっと手を伸べて子供の頭を繰り返し撫でてやれば、少し落ち着いてきたのか子供が顔を上げて正面からティアを見た。
 ティアは柔らかく微笑んでその頬を拭う。
 涙に濡れた表情は、やはりとても不安げだった。
「迷子になっちゃったの?」
「…うん……」
「お母さんを捜しているのね?」
「ひっく……うん…っく……」
「あなたはこの街の子なのかしら?」
「ううん……ひっく、ぅ…ひっく…」
「そうなの…じゃあ、今頃きっとお母さんもあなたを捜しているわね」
 そう言ってティアはぐるりと辺りを見回す。
 人でごった返す往来は、人捜しをするには骨が折れそうだ。
「…どうしましょう」
「どうしましょうねェ」
「大佐、真面目に考えてください」
「そうですね…こういう場合、下手に動かない方がいいと言いますね」
「……ですが、」
 こんな往来で、一体どうしろと。
 ふと頭をよぎった疑問にはやはり気付かなかった事にして、ティアはすっくと立ち上がった。
 腰から上体を折り、子供に向かって手を差し出す。
 さら、と長い髪が風に揺れた。
「取り敢えず、一緒に宿に行ってみましょう」
 にこりと笑ってそう言えば、おずおずといった感じで子供がティアの手にその小さな手を乗せる。
 躊躇いがちな手を握り返してやれば、漸く子供も少しだけ笑みを見せた。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふ、どういたしまして。それとお礼ならあの人にも、ね」
 あの人、と言ってティアはジェイドに笑みを向ける。
 我関せず、といった体だったジェイドは一瞬驚いたようにティアに視線を返し、けれどじっと自分を見上げてくる子供の視線に気付くとばつが悪そうに明後日の方 へ目を逸らした。
「…ティア、わざわざ私にお鉢を回さなくて結構ですよ」
「でも、大佐が荷物を持って下さったおかげで私はこの子と手を繋ぐ事が出来ます」
「……そういうのを屁理屈というんですよ」
「そんなのお互い様です」
 珍しくジェイドをやり込めた嬉しさからか、屈託なく笑うティアにジェイドは荷物を持ったまま器用に肩を竦める。
 そうして逸らした視線を元に戻せば、先刻と違わず自分を見上げてくる無垢な視線とぶつかった。
「……、」
「ありがとうお姉ちゃん。それから、おじちゃんも!」
「………おじちゃん…ですか」
「ふふふっ、さ、行きましょう」
 殊更楽しそうに笑って、ティアは子供の手を引いてゆっくりと歩き出す。
 時折一言二言言葉を交わし、先刻まで泣いていたのが嘘のように子供も笑みを零している。
 荷物を抱えたまま、ジェイドはそんな二人の少し後ろを歩く。
 他人が見たら、自分達は一体どう映るのだろうか。
 そんな事を考えながら、ジェイドは心の片隅で仲間に遭遇しない事を願った。
















(Judicial Tact.....horoscope)


ティア笑いっぱなし! そしてジェイドさん受難ぽい(笑)
でも、迷子ってこんな簡単に泣きやんだりしないような気もしますが………まいっか。