なんてあたたかくいとおしい。
この胸に満ちる、君の想い。

* TEAR *










 出るに出られない、というか、これはきっと出ていかない方がいい、とティアは思った。
 宿の一階に設えられた共同キッチンの入口に身を隠すように立って、盗み見るようにして中を窺う。
 姿など見えずとも判る。
 賑やかな声の発生源はルークとアニスだ。
「…何をしてるのかしら」
「何をしていますの?」
「!」
 思わず零れた呟きを復唱したような問い声に、ティアは僅かに肩を跳ね上げる。
 振り返って声の主を探せば、階段の中腹からティアを見下ろしているナタリアと目が合った。
「…何をしていますの?」
「なっ、ななな、何でもないわ!」
「嘘おっしゃい。隠しても判りますのよ」
「う…」
 やはり最初の反応がまずかったか、とティアは己を叱責する。
 しかし時すでに遅し。
 ゆったりとした足取りでティアに歩み寄るナタリアは、何とも言えず楽しげな笑みを湛えていた。
「ルークならアニスと一緒に料理の真っ最中ですわよ」
「…ええ、そうみたいね」
「先程アニスがぼやいていましたもの。"お菓子は専門外なんだけどー"、って」
「……お菓子?」
 アニスの口調を真似て言うナタリアに、ティアは怪訝そうな声を返す。
 料理を教わっている、と言った。
 そして今、現にルークはアニスと共にキッチンにいる。
 今の話からすると、つまり、ルークは今お菓子作りに挑んでいるという事なのだろうか。
「…何でまた」
「ふふ、案外鈍いんですのね」
「え?」
「あなた、タタル渓谷での出来事を覚えていまして?」
 タタル渓谷。
 降って沸いたようなその地名に、ティアは自分の記憶を掘り返した。
 超振動で飛ばされたのが一度目。
 セフィロトを探して訪れたのが二度目。
(……あ…)
 ぽん、とティアは自分の両手を軽く打ち合わせる。
 合点がいった、とばかりにナタリアを見れば、その表情はティアの予想を裏付けるのに足る笑みだった。
 つられるようにして思わず苦笑を零す。
 どうしてだろう。何だか酷く、胸の辺りがあたたかい。
「……もう…」
「お判りになりまして?」
「何だかアニスに悪いわ」
「気にする事はありませんわ。悪いのは、ルークなのですから」
「…それもそうね」
 一瞬顔を見合わせ、二人はくすくすと笑い合う。
 どうせなら気長に待とう、美味しい紅茶を準備して。
 たまにはテーブルを飾るのもいいかも知れない。
 花瓶に花だとか、まっさらなテーブルクロスだとか。
 そんな事を考えながら、ティアはもう一度キッチンの中を覗き込む。
 何やら必死なルークの背中の向こうで、ボウルを抱えているアニスと目が合った。
















(mind Total....TEAR : LUKE


ルクティア二部作ティアサイド、です。何でナタリアを出したのか自分でもよく判りません(…)
ティアは鈍いと思います。ていうか、寧ろ鈍いんですよね……?(訊くな)
大元のネタはケーキのレシピ習得イベントです。発想力が貧困なのがばれます(苦笑)