ありがとう。
ごめんなさい。
そして足りない言葉の代わりに。










 ザオ遺跡地下のパッセージリングを無事起動させ、ルーク達一行は地上へ戻るべく遺跡内を歩いていた。
 往路での戦闘で思った以上に苦戦を強いられたため、復路ではなるべく敵との接触を避けて慎重に進んでいく。
 それでも往路で丸一日以上かかった道のり。
 まだ、先は長い。
「…ティア、具合はどうだ?」
「平気よ…有難う、心配してくれて」
「そんなの当たり前だよう!」
「そうですわ。また目眩がするような事はありませんの?」
「大丈夫。…大丈夫よ」
 かわるがわるかけられる気遣いの言葉に笑って答える。
 半分は本当、半分は嘘。
 気付かれなければ、いいのだけれど。
 小さく一つ息を吐く。息苦しい、とティアは思った。
 まるで何かが圧し掛かっているかのように身体は重く、時折呼吸に合わせて鈍い痛みが走る。
 時間が経つにつれて少しずつ楽になってきてはいるものの、それでも気を抜けば意識を攫われそうになる感覚は一向に薄れてくれそうになかった。
「………」
 ふう、と溜息のように息を吐けばまた痛みが走る。
 その途端ぐらりと傾いた身体を、ティアは壁に手をつく事でどうにか押し留めた。
「……なァルーク、ここらで休憩にしないか?」
「ガイ!」
 タイミングよく切り出された言葉にティアは思わず声を上げる。
「おっと、ティアの為だけってんじゃないぞ。ここまで歩き通しだし…俺も疲れちまってさ」
「…そうですね。確かに老骨にはなかなか厳しいペースですし…休憩にしましょう。いいですね?」
「……」
「…ティア、私も疲れちゃったよ。休もう?」
 てててっとティアの正面に回りこみ、その両手を取ってアニスは言う。
「ほらァ、自己管理も戦いのうち! いざという時にティアが倒れたら困っちゃうよ」
「そうそう。これからまだ何があるかも判らないしな」
「では、少し早いですけれど私は食事の支度を致しますわね」
「え!? あ…な、ナタリア、私も手伝うよ!」
「………何だか釈然としませんけれど…でも、お願いしますわ」
 言いながらアニスはティアの手を離し、ナタリアの方に駆けていく。
 言われてみれば、少し空腹かも知れない。
 そう思って小さく笑みを零せば、鋭い痛みと共にティアの身体がぐらりと傾いた。
「…ぁ……」
「ティア!」
 すんでの所でルークに抱きとめられる。
 未だ少し揺れている視界を遮断するように目を閉じ、ティアはルークの腕に体重を預けるようにしてもたれかかった。
「ルーク……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ…そんな事より、お前やっぱり体調悪いんじゃ…」
「大丈夫よ。…そうね、きっと疲れてるんだわ…迷惑かけてごめんなさい」
「ティア…」





  もどかしい。
  言葉が足りない事が、たまらなくもどかしい。
  何て言えばいい? 何を言えばいい?
  一体、どうすれば伝わるのだろうか。





 ルークの腕に手をかけ、身体を起こそうとするティアを反射的にルークは抱き締める。
 冷えた身体。速い鼓動。
 ティアは一つ、苦しげに息を吐いた。
「……ルーク…?」
「迷惑なんて思わない。思わないから…辛い時は辛いって言ってくれよ」
「え…」
「俺は! 俺は…頼りないかも知れないけど…皆だっているだろ? 皆ティアの事心配してるし…その……」
 上手い言葉が見つからずにルークは口籠もる。
 自分の情けなさにいよいよ嫌気がさした。
 代わりに少し強くティアの身体を抱き締める。
 せめて、冷えた身体を少しでもあたためてやれたら。
「…ルークの言う通りだよ」
 ぽつん、と言葉が落ちる。アニスだ。
 少し離れた所からじっとティアの方を見つめ、その小さな両手は強く強く握り締められていた。
「ティアはいつも私達の事を気遣ってくれる。だから…私達もティアの事が心配なんだよ」
「アニス…」
「ティア、あなたが私達に心配をかけまいとする気持ち、私にも判りますわ。けれど…あなたなら、そんな姿を見ている事しか出来ないもどかしさもお判りでしょう? 」
「今回ばかりはルークの行動力に感謝、だな。…そうだろ?」
「…ナタリア……ガイ…」
「フフ、皆さん仲間想いですねェ。……ま、私も今回の件に関しては同感です。ティア、辛い時に辛いと言う事も、強さのうちですよ」
「大佐まで…」
 次々とティアに向けられる言葉。
 その一つ一つは本当に真摯で、思わず込み上げてきた涙をティアはルークの胸に額を押し付ける事で隠した。
 ルークの手がティアの髪を緩やかに梳く。
 けれどルークは何も言わなかった。







  甘えてもいいのでしょうか。
  少しだけ。
  ほんの少しだけ、甘えてもいいのですか?







「…………有難う…」
 くぐもった声でティアは一言だけ呟き、ルークは優しくその背を叩いてやった。
 旅はまだ続いていく。
 けれど、今だけはこのぬくもりに浸っていたいとティアは思った。
















(FORTITUDE)


セフィロトの封印を解除する毎に体調が優れないティアを心配するルーク(+ご一行)話。
ザオ遺跡でティアが倒れた続き…って、こんな感じでよかったのでしょうか? どうも解釈が違うような…気が…(ぇ)
ちょっとあったかいお話です。何となくほんのりあったかい気持ちになって頂ければ幸いです。