「コレ、何?」
「金魚鉢」
 窓辺に置かれた硝子鉢を指して問えば、案の定と言うか何と言うか、判りきった答えが返ってきて苦笑した。
 透明な硝子は滑らかな曲線を描き、縁の部分は規則的に襞になっている。
 縁取りは青、模様はない。とてもシンプルで、また典型的な金魚鉢だった。
「こんなのあったんだ」
「うん。こないだ掃除してたら出てきたから」
 飾ってみたんだ、と。
 爪の先で軽く硝子を弾いてサトウは笑った。
 大きくも小さくもない金魚鉢の中には八分目程まで水が満たされ、底にはビー玉が幾つか沈んでいる。
 水草も、金魚もいない。
 けれどそれはどう見ても金魚鉢だった。
「金魚、いないね」
「いいんだ」
 生命を預かるのは、苦手だから。



  過ぎた日に思いを馳せる。
  いつだってそうだ。
  別れの時、いつだって自分は傍観者でしかなくて。



「小さい頃にお祭りで掬った金魚は、いつも僕のいない間に死んでいたよ」
「……」
「だからいつだって怯えていた。いつの間にか僕は、一人になってしまうんじゃないかって」


  怯えていた。


 斜めに差す陽が硝子を、水を、ビー玉をすり抜ける。
 綺麗過ぎて怖い、と睦月は思った。
















(lime-Light)


サトウさんは波が少なくて淡々とした人。むっちゃんは感受性が強いイメージ。