歌唄いと祈り人 交わすは想い 始まりはあの瞬間 唄いましょう 祈りましょう **01.初めに、これだけ言っておきたい 一所に留まれないんだ、とあの人は言った。 薄い金の髪。 穏やかな笑み。 長身の体躯は細く、長い指は特に綺麗。 切々と歌うは生命。 あの人は、一体何処へ行くのだろう。 いつかはここを離れないと、と、彼は言った。 あの人はとても優しい歌唄い。 **02.次に、これを見てほしい 「からっぽなんだね」 「え?」 「鳥籠。鳥を飼っているわけじゃないの?」 「…閉じ込めて傍にいたって、意味ないわ」 「……そっか。あ、じゃあこれ見て」 「これは…?釣竿、じゃ、ないのよね?」 「似てるけどね、違うよ」 「…そういえばあなたがパーティーで歌う時、持ってた、」 「うん、そう。…あの子は、もういないけど」 「…あの子?」 「そう、あの子。いつか見せてあげる」 「…カジカさん」 「ん?」 「もしも、鳥を飼い始めたら…見にきてくれる?」 「――うん、もちろん。何処にいたって、会いにくるよ」 彼女はとても儚い祈り人。 **03.しかし、これは教えられない ぽつりぽつりと歌を声に乗せる。 あの人の歌う歌。 “生きる”という事にとてもひたむきな歌。 あの人は見守る人。 幾多の生命を見守り、見送る人。 「…君のその、力」 私じゃ駄目だ、と思う。 彼の声に乗ればそれは不思議と力を持つのに、私の声じゃ届かない。響かない。 だから標になんかなれやしない。 あの声でなきゃ。 あの人でなきゃ。 やがては遠くへ行ってしまうのだとしても。 いつまでも傍にいられないとしても。 「…私は、」 あの人が好きなのかも知れない。 **04.あるいは、知っているのかもしれない 歌をやめてふと水晶を見やれば、応えるようにそれは緩く明滅をした。 辺りには夜闇、ざわりと鳴るのは梢。 静寂が一つ音となって満ちるような夜に、わけもなく彼女の姿を重ねた。 漆黒の瞳の少女詩人。 滑らかに伸びる高音はとても綺麗で、こんな夜にはきっとよく響くだろうな、と。 「かごめちゃん…」 彼の地に残る少女を想う。 今もまだ、空の鳥籠を抱えているのだろうか。 それとも、あの時言ったように鳥を飼い始めたのだろうか。 ずっと傍にはいられないけれど。 待っていてなんて言えないけれど。 「好き、なんだ」 ただ一つ、伝え方を知らない事がもどかしかった。 **05.結局、伝えたい気持ち 鳥籠は相変わらず空のままで、竿の先にも相変わらず何もついてはいなかった。 再会したのは暑い夏の日。 互いにとって問題なのはどれだけ会わなかったかではなく今こうして傍にいるという事。 陽射しはじりじりと肌を焼き、自然と滲む汗にも構わずどちらからともなく指を絡ませた。 「ただいま」 「…おかえりなさい」 少し照れたように、それでもとても幸せそうに。 暑さの所為だけでなく紅潮した頬に気付き、顔を見合わせて思わず少しだけ笑った。 たとえ、ずっと傍にいられないのだと、しても。 「かごめちゃん」 「なに?」 「…僕は、」 少し躊躇って、それでもぎゅっと手を握って。 伝わるのは熱度。 どうせなら、この想いさえも一緒に届けてくれればいいのに、と。 「きみがすきなんだ」 これ以上なくシンプルなそれは唯一。 他の何よりも誰よりも大切な、ただ一つだけ、“きみがすき”。 優しい歌唄いは、儚い祈り人に恋をした。 「…私も、」 躊躇いがちに、軽くその手を握り返して。 届くのはぬくもり。 そして、熱にも似た思い、想い。 「…すき」 消え入りそうな声は僅かに震えて、それでも握った手だけは離さぬよう。 他の誰よりも何よりも、大切なのは唯一、“きみがすき” 儚い祈り人も、優しい歌唄いに恋をした。 それが始まり。 (祈歌切々) 電 波 万 歳 ! !(…) とてもいい感じに意味の判らないカジかご馴れ初め話でした。 ちなみに五つに分裂しているのは友達が創ってくれたお題にそって書いたからです。 |