にっこりと笑って「さようなら」を告げたあの人は
 日暮れが終わって夜になる前に消えてしまった
 けれど一日はまだ終わらず続いていく
 あの人のいないままに
 夜は積もっていく


 (茜色の空を見上げました。
  目が眩むほどの色彩は
  どうしたって
  あなたの面影を思い出させてはくれませんでした。)


 「さようなら」と呟いた声は少しも震えず
 でも真っすぐに響く事もなく
 ただ静かに
 夕暮れの空に溶けていった
 あの人の声はとても綺麗で
 ほんの少し
 夜に似ていた


 (夜はやがて明けていきます。
  静かに音もなく降り積もる時間に
  いつの間にか
  置き去りにされてしまったのです。)


 空は広く
 世界は広く
 夜は近く
 茜は遠く。
 気付かないうちに何かを失い
 もう
 ここにあの人の面影は残っていないのだと
 気付いてしまった


 (「さようなら」と言えませんでした。
  だって
  あなたはさいごまで
  優しすぎたのです。)


 そうして見上げた空と
 一日の欠片の中に
 いつしか茜は消えてしまった









(004.茜は過ぎて)




小説、ではない感じ。じゃあ何なのかといわれても困るのですが(…)
こういう形態も書いていて楽しいです。