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 ひっくり返した砂時計を、飽かずに半日見つめていたらさすがにばかにされる前に心配された。お前大丈夫か、なんて。大丈夫に決まってる。
 俺の目の前には、カップ麺をつくるときや、歯磨きをするときに使うぴったり三分の砂時計。真っ白な砂がさらさら、さらさら、聞こえるはずのない音を立てて重力にしたがって落ちていく。さらさら、さらさら。
「何やってんの」
「計ってるの」
「何を」
「時間を」
「……」
 最初は別に、じっと見つめるつもりでひっくり返したわけでもなければ、カップ麺のためでも歯磨きのためでもなかった。時計が止まっていた。理由はそれだけだ。
 影の長さや外の様子なんかで大体の時間を知ることはできるけれど、精密に時間を計ることは多分できない。可能な限り正確無比に、精密に、時間を計りたいと思ったときに思いついたのは唯一これだった。砂時計。ぴったり三分しか計れないけれど、ぴったり三分なら計れるのだ。
「…何の、時間を」
「おわりまでの」
「……何、の?」
「わかってるなら訊かないでくれる?」
 言いながら、砂の落ちきった砂時計をひっくり返した。新しい三分の始まり。さっきまでの三分の終わり。さらさら、さらさら。白い砂が落ちていく。
「いつも、時計を見ては怯えてた。深呼吸して、心の準備して、ちゃんと笑ってさよならまたねって言わないとって」
 今朝、時計が止まっているのを見て、実際、ほんの少し安堵した。針の巡りと、おわりまでの距離は紙一重。ちくたくちくたく、ささやかな秒針の音がいつだって俺を追い立てる。
「ばかばかしいと自分でも思うよ。やり方だって、きっともっとあるはずなのに」
 ばかばかしい。と、言って欲しかったけれどこいつは優しいからきっと言ってくれない。これは俺のわがままで、身勝手な理論で、どうせなら笑い飛ばして欲しいぐらいなのに、こいつはきっとそうはしてくれない。俺はそれを知ってる。
 さらさら、さらさら。砂は落ち続ける。真っ白な砂。さらさら、さらさら。
「……」
「……」
 沈黙が流れる。砂は落ちる。三分は案外長い。
 この三分が終われば、また次の三分が始まる。ようやく落ちきった砂は、ひっくり返されればまた落ちなければならない。けれど、もしかするとそれはもう同じ砂ではないのかも知れない。
 さよなら、またね。
 きっと今日は笑って言えない。






(もう戻れない5のお題/01.こぼれた砂のような)
If you leave me,