今もってわからずにいる。
 どうして、彼があんなにも頑なに僕の傍らにいたのか。
 もっとも、単純な依存度でいえば僕の方がその度合いは高く、あの日々の終わりをより怖れていたのだって、多分僕の方だったはずだ。
 曖昧に、寄りかかりあうような関係は心地よくて、なるべくなら変化などないように、と願っていた。
 彼がどう思っていたか、なんてことは知る由もないし、知りたいとも思わない。
 こんなことを言うのは柄じゃないけれど、どうせなら思い出は美しいままにしておきたい。
「……何だかなァ……」
 言わないことが多すぎたのだ。多分、互いに。
 例えば何かを伝えていれば避けられたとは思わないけれど、あるいは、この喪失感だけでも少しは緩やかであったかも知れない。
 もう殆ど終わってしまった、今年の冬に雪は降らなかった。
 だから、きっと終わるべくして終わったのだ。



 さよならを伝える間もなく、訪れたのはあまりに静かな“さよなら”のとき。
 多分これでよかった。
 これで、よかったんだ。



 傷つけるばかりが本意ではなく、また、それと同じぐらいに依存しきることも互いに望みきれなかった。
 僕らは、もしかしたら互いを犠牲にしてでも守りたい何かがあったのかも知れない。
 そうでなければ、自らを犠牲にしてでも、相手を守りたかったのかも知れない。
 彼のことが好きだった。
 そんな嘘のような感情を、僕は一生抱えて生きていくのだ。


「―――――さよ、なら」


 伝えられなかった台詞。
 届かなかった願い。


 きっと、雪が降るたびに思い出す。







(雰囲気5詞:雪/05.もう会えないのなら)
goodbye