花咲くように笑む人へ。
ささやかな想いと願いをこめて。










 キィ、と控えめな音が静寂に凝った空気を揺らした。
 平日の午後、人気のない図書館の館内にはゆったりと停滞にも似た時間が流れている。
 少しだけあげたブラインドの向こうには霧のような雨。
 ミシェルは書き物をしていた手を止めた。
「こんにちは、ナカジ君」
「気付いていないのかと思っていました」
「まさか」
 相手を見ずに言葉を投げた自分に少し微笑い、ペンを置く。
 そうして漸く顔を上げれば、案の定そこにはいつもと変わらない体のナカジが立っていた。
「小雨が降っていますが、陽も差しています。通り雨ですかね?」
「多分ね。…雨宿り?」
「いえ…これを、」
 差し上げます、と。
 そう言ってナカジは少し大きめの紙袋をカウンタに置いた。
 ミシェルはナカジにタオルを差し出してやりながら小さく首を傾げる。
 外は少し暗くなったようだ。
「花です。鉢植えの」
「花?」
 ナカジの言葉に、ミシェルは立ち上がって紙袋を覗き込む。
 中には青々とした葉の茂った植木鉢と、クラシカルな硝子の水差し。
「…どうして、突然」
「ミシェルさんは花が似合いそうだと思って」
「…何それ…」
 くすくすと可笑しそうに笑い、ミシェルは水差しを袋から取り出す。
 小振りなそれは全体に丸みを帯び、透明な側面に流れるような青いラインが引かれている。
 爪で弾けばキンと澄んだ音がした。
 繊細な外見に似合わず、案外丈夫そうだ。
「ナカジ君は相変わらず面白いね」
 何故か目の前に棒立ちになっているナカジに言う。
 もう一度水差しを軽く弾き、笑みを向ければ漸くナカジも照れたように笑った。
















(花硝子)


初ナカミ。SSS…と言っていいかも微妙なほど短い;
ミシェルさんはナカジ君の事をとても面白い子だと思っています。ナカジ君としては複雑です。