「しばらく留まることにしたんだ」
「……しばらく?」
「うん。春まで、かな。今度は北へ行くから」
「………春、まで」
 酷く漠然とした期間を提示され、かごめはついとカレンダーに目をやった。
 クリスマスが過ぎて数日。
 窓の外にはちらちらと雪が舞い、春の気配など全く感じられない。
「……どうして?」
「え?」
「待っているのは、平気なのに」
 言ってから、もしかしたら声が震えていたかも知れない、と思ったけれど今更だった。
 カジカが言っているのはそういう意味ではない。
 わかっているのに。
 わかっている、けど。
「春なんて、まだずっと先だわ」



  行ってくるね、と言って、遠ざかっていく背を見送った日を思い出す。
  あの日、一度も振り向かなかったのは彼の優しさだったのか。



「行かなきゃ、って、言ったわ。だけど……けど、帰って、くるって」
「かごめちゃん……」
「思うの。帰ってきたら、帰ってきてくれたら、何をしようって。おかえりって言って、一緒に食事をして、そうして、また、行ってらっしゃいって、」
「かごめちゃん」
 なおも言い募ろうとするかごめを制し、カジカはそっとその手を握った。
「聞いて。僕は、春になったらまた、遠くへ行く。けど、それまで、かごめちゃんの傍にいるから」
「……でも、」
「一緒に、一緒に……その、遠くじゃなくてもいいから、何処か、一緒に行こう。かごめちゃんに見せたいものが、たくさんあるんだ」
 だから、と。
 安心させるように笑って言えば、かごめはようやく、まっすぐにカジカの方を見た。
 大きな瞳がぱちぱちと瞬きを繰り返し、そうしてやがて、ほころぶようにかごめも微笑った。








(marshmallow)


どう転んでもほのぼののんびりな二人。年越しはきっとこたつでみかん(笑)