小さな小さな花が咲く。
それはまるで芽吹きのような。










「あ、ナカジ君。こんにちは」
「……」
「…ナカジ君?」
 返事をしないナカジに、ミシェルが訝しげに声をかける。
 軽く小首を傾げればさらりと髪が流れる。
 両肩の所で結った髪と、それを留めるピンクの花飾りが。
「…ナカジくーん、どうしたの?」
「ミっ、ミミミミミミミシェルさん! どうしたんですかそれ!?」
「それ…あ、これ?」
 これ、と言いながら自分の髪を留める花を弾く。
 漆黒と言えそうなほど黒く艶やかな髪に、控えめな淡いピンクの花はよく映えた。
「貰ったんだ、近所の保育園の子に。お母さんと時々来ている子なんだけどね…なつかれちゃって」
 少し困ったようにも見える笑みは柔らかく、優しい。
 普段と変わらないそんな表情も、少し髪型が違うだけで随分と違って見えるものだ、とナカジは妙な感心を覚えた。
「…、変かな?」
「いいえ! お、お、お、お似合いです!」
「……あ、ありがとう…」
 言ってから互いに気恥ずかしくなったのか少し黙り込む。
 ほんわかとした沈黙がしばし流れ、外から聞こえてくる子供達の笑い声がその合間を埋めて過ぎた。
 どちらからともなく顔を見合わせて、微笑う。
 その拍子にミシェルの肩で小さな花が揺れた。
「本を読む時邪魔にならなくていいよ」
「ミシェルさんらしいですね」
「少し練習しようかな…案外難しくて」
 片方の飾りを外し、カウンタの上に置く。
 長く結ったままだったのだろうか、解いた髪には少し跡がついていた。
「ミシェルさん」
「何?」
「髪に、触ってもいいですか?」
「え…? あ、その…うん…」
 躊躇いがちなミシェルの答えに、ナカジはそっと手を伸ばして髪を梳く。
 引っかけないように気を付けて逆の飾りも外せば、そこにも同じように少し跡がついていた。
















(散花歌)


ミシェルさんはツインテールとか似合うと思うよ、っていう話。ナカジ君もめろめろだよ(笑)