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 ふと意識が浮上した合間に雨音が聞こえた気がして、開け放したままの窓に目をやった。
 晩夏、残暑とは名ばかりの暑気がこもる室内は酷く不快で、首筋を伝う汗もまた不快だった。
 カーテン越しに見えるのは緩慢な明滅。
 手を伸ばしてカーテンを細く開け、真夜中の静寂に凝る、よく見知った街並みを見た。
 それはまるで、数年ぶりに顔を合わせた知人のような、確かに知っているのに今や他人に近い曖昧な存在によく似ていた。
「……暑い、」
 エアコンのリモコンに手を伸ばしながら、眠い目を数度瞬かせる。
 目を閉じた一瞬にだけ聞こえる雨音。
 それはどこか波の音に似ている。


  ……ざあ……ざあ………


 じっと窓の外を見つめながら、聞こえるはずのない雨音――波音かも知れない――に耳を澄ます。
 瞬きに重なる音。そして見上げた空には上弦の月。雲ひとつない、暗く青く、冷たい夜。
 いっそ本当に雨が降ればいい。
 仮初めの雨音が――偽者の波音が――聞こえなくなるくらいの、絶対的で圧倒的な、本物の雨が。
 そうすれば、こうして夜半に暑気の不快さに眉をしかめることも、他人のような見知った街並みにおののくこともなくなるのかも知れない。


  ……ざあ……ざあ………


 まぶたの裏に見えるのは雫の残像。
 いつかの日の雨は、今日もまだ降り止まない。








(016.今日もまた雨)




何だか妙にしっくりくる文章が書けてちょっと満足。
雨音(または波音)は、何かの象徴としてすごく使いやすいモチーフなので多用しがちです。