困ったように笑う彼女の横顔は綺麗で、けれど僕は、ああ傷つけたんだなァ、などという妙な感傷でもってそれを見つめた。 傷つけた、というと多少語弊はあるものの、結局、彼女が浮かべる綺麗な笑みが僕によるものであるのなら、やはりそれは僕に原因があるのだろう。 彼女は聡い人だから、きっと僕のこんな葛藤にも気付いている。 だからこそ、彼女はこんな綺麗に笑うのだ。 「傷つけたという……それは罪悪感なの?」 「判らない。けれど、少なくともいい気はしない、かな」 「…そう。それなら……こんな思いも悪くはないわね」 「―――ごめん」 「どうして?」 「どうしても。今言わないと、きっともう言わないと思うから」 言いながら、自分でも言わんとする所が判らなくなってきたように思う。 別段何か言いたい事があったかと問われればそうでもない。 ただ、彼女の綺麗な笑みが何処か痛く、哀しかっただけなのだ。 「…そんなつもりじゃなかったのに」 「……知ってるよ」 「私だって、………私だって、」 「うん、知ってる。だから、もういいんだ」 繰り返される言葉に、同じように繰り返し言葉を返す。 だから、というわけではないけれど、本当の事など知らないほうがいいのだろうな、と、漠然と思った。 根拠なんて何もなかった。 (013.嘘つき) 嘘つきなのはどっちなのか。或いは両方とも嘘つきなのか、そうでないのか。 全てありうる空気で、けれど結末などない曖昧なお話です。 |